「子ども分科会」中間報告

ゆめおり市民会議生活・福祉分科会
お互いに信頼し合える親子関係、人間関係をつくる


乳幼児期は人間成長の原点である。人間不信は、児童虐待、いじめ、不登校、学級崩壊、家庭内暴力人間関係のひずみの根本的な原因であることを認識しよう。乳幼児期に極端に母子を分離することが「こころの穴」となり子どもの成長過程で大きな問題をもたらしてしまう。
核家族の進展による親の子育て力の弱体化も、様々な社会問題を引き起こす原因である。未来を担う子ども達の人材育成を十分出来ないことは、国際的な日本の経済競争力の弱体化をも意味する。
子どもの問題は、次の世代に受け継がれる問題でもあり、根本的な対策が必要である。

1:家庭が成り立つ働き方ができるように

  • 働くことも子育ても可能になるバランスの取れた施策の展開
  • 育児休業、子どもが病気の時の看護休養制度を充実させる
  • 労働時間の短縮・ワークシェアリングの実施
  • 両親が共に手を取りながら子育てを進められるように

2:子どもの視点に立った保育制度の見直し

  • 0、1、2歳児は、家庭的な保育が望ましい
  • 家庭福祉員制度、ファミリーサポートセンターの充実
  • 子育て広場をすべての保育園と幼稚園に設置する
  • 保育園と幼稚園は子ども達の社会的自我を育てる重要な役割を持つ
  • 親子の絆を強め、親が親として育つために
  • 子育てに親自身が取り組めるように
  • 乳幼児と交わる経験やベビーシッター養成を保育園で
  • 子どもが父を尊敬して敬えるような取り組みを

3:小児保健指導と小児医療の充実

  • 出産後の小児保健相談事業の実施
  • 親になることの喜びを伝えることも保健所の大切な役割
  • 小児科24時間診療の確保

4:公園などの遊び場の充実

  • 親子で楽しめる公園の設置を
  • 目的をもった公園の設置・・・プレイパーク、動物の飼育ができる公園などを
  • 自然公園としての高尾山も貴重である
  • まちなかの遊び場や河川や雑木林など、身近な自然の中での遊び場が、確保されるように

・・・・・・ こどもの問題は、様々な社会問題の原点 ・・・・・・
生活・福祉分科会の議論の中で、社会的な心の問題の最も奥深い部分に、乳幼児期の心のとらえかたが重要であるとの結論になった。乳幼児期は、人間成長の原点である。人間不信は、児童虐待、いじめ、不登校、学級崩壊、家庭内暴力、人間関係のひずみの根本的な原因である。   
したがって、お互いに信頼しあえる親子関係、人間関係をつくれるようにすることが、社会の様々な問題を解決する重要な糸口となり得るはずである。様々な子どもに関する基本的な問題と今回の提案について、詳細な説明が必要と考え、補足説明を行う。

はじめに

先進国社会は共通の問題に悩んでいる。
一人ひとりの個性や生き方が尊重されることによってもたらされた価値観の多様化は、それ自体では望ましいこととされながら、社会全体ではさまざまな問題をもたらしている。豊かさを求めた社会が、その豊かさゆえに失った大切なものの存在に気づき、大きくそのありかたを見直しているのである。
いわゆる核家族化の進展は、それまで空気のように当たり前に存在していた地域社会や家族・家庭の力を弱め、そこから派生してくる親の子育て力の弱化や子ども問題を引き起こし社会を悩ましているのである。
現在日本の社会では、いわゆる学級崩壊や引きこもりなど、子どもの心の裏側に巣くっている問題が、やがては社会全体を根本から揺るがしてしまうのではないかと心配されている。
そればかりではない。未来を意味する「子どもたち」は日本を支える大切な人材として育っていかなくてはならないが、これらの育成が十分果たされなければ、日本は世界における競争力を失い、現在優位にあると思える経済的なステージにおいても相当大きなダメージを受けるであろう。
今や、子ども問題に対する対策は火急である。この問題はすでに3世代にわたる悪循環が繰り返されている。問題を持った子どもが親になり、その親が深刻な子ども問題をもたらしているのである。
子ども問題については根本的な対策を打たない限り解決は見られない。多くの精神科医や小児科医、その他の専門家が指摘しているように、これらの問題の根は乳幼児期にあるはずであり、成長してから起こる問題に対症療法的な施策を施しても、何の解決ももたらさないように思えるのである。
これらの背景を受けて、こども分科会は「お互いに信頼しあえる親子関係、人間関係をつくれるように」をテーマに、次のような提言を行う。

0・1歳児における母子関係は人間社会の原点

子どもは最も信頼できる人に依存し、反抗しながら一次自我を形成していく。やがて成長発達に応じて、小さい社会的な集団にはいり、社会的自我(二次自我)を成長させていく。 この社会的自我の成長が人間社会の健全な成り立ちに非常に重要なのであるが、基本である一次自我の確立なしには社会的自我は十分に育たないという点に着目すべきである。「いじめ、不登校、学級崩壊、家庭内暴力」などの問題の裏にはこの一次自我の確立に何らかの問題が存在しているのではないかということを多くの専門家が指摘している。

家庭が成り立つ働き方を

働く母親の増大により0・1歳児保育など、集団での社会的保育が推進されている。しかし、これは乳児を母親から引き離してしまい、この極端な母子分離が「心の中の穴」として乳児期・幼児期・少年期を経、やがて思春期に大きな問題をもたらすのではないかと危惧されている。
人間の成長過程にはさまざまな補完作用が働くので、これらの保育が必ず問題を引き起こすとは断言できないが、先進ヨーロッパ社会ではすでにこれらのことに気が付いており、育児休業制度の充実、子どもが病気のときの看護休暇、労働時間の短縮・ワークシェアリングなど、家庭が成り立つ働き方を進め、親が親として役割が果たせるような社会構造の再構築に着手している。あのアメリカでさえも、共和党のみならず民主党も「伝統的家庭の復活」を提唱している。
経済問題は最重要課題であるが、社会制度では代替えがきかない家庭の力を見なおすべきである。東京都の石原都知事は「心の東京革命」で家庭の教育力の復活を提唱しているが、現在の保育施策が推進されると、家庭は本来持たなくてはならない能力を弱めてしまうというパラドックスを持つことになる。
こういった問題を直視し、「働くことも子育ても」可能になるバランスの取れた施策を推進すべきである。男女共同参画社会の推進で、父親が子育てに積極的に参画することを進め、両親が共に手を取りながら子育てを進めることが望まれる。心の安定した子どもが育つことによって、解決される社会問題は少なくないはずである。
それには、市場競争主義の道をまっしぐらに突き進んでいる現在の日本の社会のあり方を見直し、家庭が成り立つ働き方を考えなくてはならない。この問題は国民レベルの問題であるが、これに対策が施されなくては子ども問題の根本的な解決は見いだせないところから、あえて言及させていただいた。

子どもの視点に立った保育制度の見直し

1.予算

保育施策の充実は最重点課題である。これが家庭を明るくさせ、社会を健全にする。ノルウエーでは国家予算における子どもに対する費用は、高齢者に対する費用を100とすれば、110であると聞く。我が国ではどうかというと、高齢者を100とすれば、子どもは20であるそうだ。厳密な比較ではないだろうが、あまりにも少なすぎる。
保育園・幼稚園・学校は子どもたちだけの問題ではなく、親の問題にも対応しなくてはならない時代になった。現実に横たわる問題に対処しながら、次の世代の保育・教育を行い、未来社会の構築を行うのである。2重の負担がかかるのである。このことを考えただけでも、予算は十分に充当されるべきである。

2.0・1・2歳児における家庭的保育の推進

01歳児の母子関係の重大さは前述したとおりであるが、現実の経済状況や労働環境を考えると、理想を述べたところで解決はされない。しかしながら、0.1.2歳までの保育においては集団的な保育より家庭的な保育の方が望ましいことは明らかである。子どもは1対1の関係を大人に求めており、その特別な関係が安定した一次自我を育てていくのである。
仮にそういった関係が親の就労やその他の理由で求められないのであれば、それに近い関係を持つことができる保育体制を補完するべきである。それが推奨される家庭的保育制度である。

3.家庭福祉員制度・ファミリーサポートセンターの充実と会員の増員

これらの保育サポートは子どもとの安定した関係を築くことができるので、一時保育・日曜、祭日保育・病児保育・宿泊保育などのいわゆる特別保育を行っても、子どもに与える影響を大きく減ずることができる。
それに加え、預ける側と預かる側が深い信頼関係を築くことができるので、人と人との関係が深まり、地縁を育ててくれる。また、自然な形で子育て上の助言や指導を行うことができる。これらが効果的に子育ての不安を取り除いてくれるのである。
費用についても保育園での費用の3分の1程度であるともいわれている。行政的にもメリットの多い制度となろう。しかし、担当する保育者の質の確保は最重点課題になるので、研修や相談・現場視察などの対策を十分備えることは前提条件である。
フランスでは全人口の約1%(50万人)の人たちが自分の家庭で他の家庭の子どもの保育を行っていると聞く。我が八王子市ではファミリーサポートセンター会員は提供会員(子どもを保育してくれる会員)が339人程度、家庭福祉員にいたってはわずか8人ということである。全市にある保育園にファミリーサポートセンターの支部を置き、提供会員の拡大を図り、保育園の範囲ではまかないきれない保育の需要を支える対策を進めてもらいたい。

4.子育て広場を全ての保育園・幼稚園に(子育て不安に対する施策を含む)

保育園に最初に預けるときに「慣らし保育」というのがあるが、これは母親から保育園の保育士に子どもたちが徐々に慣れていってもらうという大切な制度である。しかし、これとて子どもたちにとって問題が多い。1週間や10日の慣らしでは十分な関係を築くことはできない。それに始めて見る場所、始めて合う人たちとの経験は、子どもにとって、まるで森に迷った羊のような状態かもしれない。
子どもは一番信頼できる人に依存しながら自立をしていく。保育園に預ける初期段階で、子どもは一番信頼できる人の存在の喪失に見舞われる。この時点での不安が前述の「心の中の穴」をもたらすのかもしれない。特に年齢の低い0.1.2歳児におけるこういった状況は早く改善されるべきではなかろうか。
その点、全てに保育園・幼稚園に子育て広場が開設されれば、親が同伴で保育園や幼稚園に遊びに行ける。親が同伴であるので、子どもは不安を覚えない。やがて集団に入るための効果的な前段階を経験できるし、こどもが入ろうとする保育園や幼稚園という新しい環境に慣れることもできる。
この子育て広場には、親子が必要な時にいつでも気軽に利用でき、親同士が情報を交換しながら仲間を作れる。保育園や幼稚園には子どもが楽しく遊べる環境がすでにあり、それに保育の専門家・看護婦・栄養士がいるので、いろいろな不安や相談に答えることができる。
この子育て広場は子育て不安や幼児虐待に対する対策として、根本的な対応が取れる非常に効果的な役割を果たせるであろう。
以上のようなの保育園や幼稚園の子育て広場活動には、専門家の助言と指導が必要である。何の脈絡のないままこの活動をしても効果は薄い。庁内に配置された専門家により定期的な訪問と指導・研修が大切である。子育て広場は相当な効果があることは実践で示されている。
現在、八王子市の保育園には78園のうち、6カ所しか開設されていない。早急に整備すべきである。児童館には12カ所の子育て広場事業が展開されているが、子どもたちの保育への連携を考えると、保育園や幼稚園に設置することが望ましい。

5.保育園・幼稚園の役割で大切なこと(社会的自我の育成)

安定した母子関係を基盤に子どもは一次自我を充実させ、やがて同じくらいの大きさの子どもたちに興味を持ち、関係を作ろうとする。自分中心の世界からだんだんと周りの世界との関わりを深めていくのである。保育園や幼稚園での集団のルールを意識的に受入れるようになり、やがて子ども同士でつくる集団での楽しさを知るようになる。「○○したい」という自分中心の世界から「○○したい。でも△△する。」といった自制心が育ち、集団遊びや保育を通じてルールに従った方がより大きな喜びをあたえてくれるということを知る。
これが、子ども社会の基盤になる。こういった社会的自我が育てば、周りに無関心な、自己中心的な子どもは少なくなり、学級崩壊などの問題も減少するだろう。保育園や幼稚園の集団保育の目的はここにある。
しかし、集団での活動は社会的な関係が求められるので、家庭のような、いつでもゴロっとできるような環境は期待できない。家庭的な保育は保育園や幼稚園の時期だけでなく、学校に通う段階になっても必要である。
現実に親の就労状態や子どもの心や体の健康状態に合わせ、親密な関係で子どもを支えられるファミリーサポートセンター制度や家庭福祉員は大切な役割を果たす。充実が期待される。

6.親子の絆が強まり、親が親として育つ取り組みの推進

3世代にわたる繰り返しを経て、現在の子育て中の親の中には、親としての必要条件を満たしていないような状況が顕著になってきた。幼児虐待などはその最たるものだが、これも今までの制度や社会状況がもたらしたものである。
しかし、その根っこは深く、即効薬は望めない。ここは、ひとつ原点に戻って、子どもの段階から親になるための経験を積み重ねていくことである。

・子育てに親自身が取り組める姿勢を育てる

親は保育園などの社会制度に依存しすぎず、自分で子育ての喜びや楽しみ、そして同時に大変さも知っていくように心がけるべきである。そのことで、親自身が思春期を迎える子どもたちの問題と対峙する能力を高め、子どもが育っていくことに喜びを感じることができるようになることを期待したい。
保育を他人に「お願い」するということは、子どもに対する対応能力は「お願いされた」方に育ち、「お願い」した方には育ちにくい。子育ては親がその能力を育てることが基本である。さまざまな状況により困難はあると思うが、基本は忘れてはいけない。

・乳幼児と交わる経験やベビーシッター養成を保育園で

保育園では、小学校高学年や中学校・高校生に子育ての体験を積極的に提供すべきである。0.1歳児をあやしたり、おむつを交換するような体験を通し他人に対する思いやりや心配りを感じ、同時に自分が親になったときの状況を事前に経験できることになる。乳幼児への関わりは全ての人間に暖かい心をもたらしてくれる。
この経験に対する現場の十分な配慮が必要であるが、弱い他者との出会いは中学生、高校生たちが自分のことを考えるよい機会を提供するはずである。これらのことは、保育園の年長組の子どもたちでも小学生でも行える。
乳幼児と交わる経験だけでなく、保健・健康・安全・子どもの心理などの研修を経た中学生・高校生にはきちんとしたベビーシッター資格証を与え、それで実際の仕事ができるようにすればよい。親としての教育と同時に現実の保育需要にも応えることができるようになる。一挙両得である。保育園に設置された子育て広場のスタッフやファミリーサポートセンターの職員は効果的な役割を果たすことが期待できるはずである。

・子どもが父親を尊敬したり、敬えるような取り組みを

調査によると、子どもたちが父親と接触する時間は1日に5分とか15分というような短い時間だそうである。最近では父親が子育てに参加するようになってきたが、まだまだ主流ではない。男性の育児休業の取得率は1%に満たない。
イギリスでは夕方4時には仕事は終わり、父親は明るいうちに家庭に帰ってくる。母親が夕飯の準備をしている間、父と子は家の周りの仕事に忙しいそうである。こんな中に親子の絆が育つ。現在の労働環境ではこのようなことは望むべくもないが、ぜひ我が国でも実現したいものである。
一方、昔からある伝統的な祭りや地域の特徴をもった取り組みが大切である。こういった行事に父親は父親らしさを発揮し、子どもに尊敬されるような存在をとして自己表現すべきである。保育園・幼稚園・学校での運動会なども大切にされるべきである。これらの地域の取り組みが親子の関係を強くし、父親を尊敬するようなできごとをもたらしてくれる。

小児保健指導と小児医療の充実

1.出産後の小児保健相談事業の実施

自分の子どもが生まれて、はじめて赤ちゃんを抱っこするような、子どもとの接触が少ない人たちが親になってきている。育児不安は深刻化し、医師が母子保健にかかわる個別指導の重要性は増してくる。特に出産してからの不安は大きく、産科医と小児科医は連携を取り(紹介状の発行など)母子の保健指導を行うべきである。

2.保健所の役割

母子手帳の発行を受けて、保健所は母親となる人だけでなく、父親となる人も交えて、子育てに関する知識や親になる心構えなども合わせて伝えるようにしたい。特に若年での結婚により、親になる意識が十分育っていないような事例が多くなると予想されるが、こういった人たちに親になることの喜びや意味などを伝えることが大切である。こういった指導や講習が乳幼児の虐待を防止するのに効果が期待できる。

3.小児科24時間診療の確保

都立小児病院の移転で市民の多くは、小児医療期間の不足に不安を抱いている。幸い、大きな大学病院が建設されると聞いているが、細かい対応はどうなのだろうか。現在でも夜間の小児救急病院が十分でなく、救急車でたらい回し状態になると聞いているが、こういった状態は一刻も早く改善してもらいたいものだ。
前述の産科医と小児科医との連携により、どの子にもかかりつけ医が備わるような対応が望ましい。生育医療の重要性が叫ばれている現在、市民の子どもたちが出産から継続して受診、相談できる医療体制が確立されたとしたら、どれくらい有り難いだろうか。

公園などの遊び場の充実

1.親子で楽しめる公園の設置

八王子市には親子で楽しめる公園が少ない。府中市には郷土の森公園があるが、あの程
の公園は望めないものなのだろうか。じゃぶじゃぶ池があり、年齢に応じた遊具が備わった公園が欲しい。

2.目的をもった公園の設置

子どもたちの健全育成の見地から、公園の充実が望まれる。羽根木プレイパークや動物の飼育ができる公園など子ども社会が自主的に形成されるような公園が望ましい。そこには専任の児童員が配置され、子どもが必要なときに、必要な助言が施されるようにしたい。
尚、自然公園としての高尾山は八王子市の財産として貴重な存在であることを確認したい。

3.身近な自然の中での遊び場を

河川や雑木林など身近な自然の中で遊ぶ機会を増やしたい。自然とのふれあいは、教育的な意味を含めて大切にしたい。